りんごの場合(その2)


ウソだ・・りんご姉が優しげな口調で語りかけてきている。
まさか、俺がいない間に「許す」ことを覚えたというのか!
いや、きっとこれは嵐の前の静けさ・・くる・・ヤツがくる。
この体勢からだとスピニングトゥーホールド。 いや逆エビか!?
【りんご】・・私もね。 ちょっとまずかったと思う。
【 俺 】え。
【りんご】イタズラのつもりだったけど、みんなが本気にしちゃうとは・・ごめんね。
【 俺 】・・・。
【りんご】今は反省してる。
【 俺 】・・そ、そっか。
【りんご】こんなアタシでも許してくれる?
【 俺 】り、りんご姉・・分かったよ。 でも、今日みたいのはもう・・。
【りんご】ええ、勿論、しないわ。 そうだ、これ、お詫びのしるし。 はい。
【 俺 】ありがと・・?
りんご姉の差し出すコップを受け取る・・直前、俺の右手が硬直した。
「ちょっと待て」
「コップにそそがれたオレンジジュースだよ?」
考えてみろ俺。
今までにりんご姉が、マトモなものを俺に飲ませようとしたことがあったか。
一度でもあっただろうか?(いや、ない)
【りんご】なによその顔。 まさか・・。
【りんご】「何かはいってるんじゃないか」って疑ってるんじゃないでしょうね?
【 俺 】そ、そんなことは・・(カタカタ>コップを持つ手が震える音)
【りんご】・・ふ。 まったく、しょうがない弟ねぇ? 貸して。
言うと、りんご姉が、オレンジュのはいったコップを自分の口元へ持っていく。
【 俺 】・・・。
「どう? 何ともないでしょ?」
オレンジュを口に含み、こちらを見る眼差しが物語っている。
【 俺 】(そうか・・ホントに何もなかったんだ)

//BGM停止
【 俺 】むぐっ!?
緊張を解いたその瞬間の出来事。
一瞬、何が起こったのかすら解らなかった。
【りんご】・・んん・・。
とりあえず、目の前にはりんご姉の顔。 それも、どアップ。
ともすると、俺の唇にあたる柔らかい感触は・・ま、ま、まさかッ!?
【 俺 】(俺・・りんご姉とキスを!?)
気付いた途端、口内に広がるオレンジジュースの味(しかもヌルイ)
もしかしなくても、これは口写しでジュースを飲まされてる状態(すなわち本土決戦)
【りんご】んく・・。
っていうか!
【 俺 】(りんご姉、ジュースに混じってなんか流し込んできたぁ!?)
【 俺 】(一体、俺に何を飲ませてるんだ!)
【 俺 】ゴクリ。
叫ぼうにも声を出せず。
真っ白の世界が俺の全身を硬直させた。

//BG 自室(夕方)
//立ちキャラ りんごイン
【りんご】ぷは・・! ふう、唇、ごちそうさま。
【 俺 】お、お粗末さまでした・・。
【 俺 】って違う! いきなりこんなっ、キ、キ・・・キスぅ!??
【りんご】す、す・・すき焼き?
【 俺 】キ? キ、キ・・キス! ってシリトリはどうでもいい!
【りんご】そうね、ループ気味だったしね。
【 俺 】り、りんご姉、何でこんな口移しみたいな真似を!
【りんご】アンタが素直にジュースを飲まないからよ。
【 俺 】ジュースと一緒に、何か「ゴロッ」としたものが喉にはいってきたぞ!
【りんご】ふふふふ、錠剤みたいな喉心地?
【 俺 】何を口移したぁぁぁぁ!
【りんご】あらら? わからない? あんたも知ってるはずなんだけどなー。
【 俺 】・・! ・・まさか今朝の。
【りんご】ピンポーン☆ バイアグラで大正解ー! 懸賞はア・タ・シ。
【 俺 】マジカヨ!
【りんご】あ〜、苦労した。 あんた用心深いんですもの。
【りんご】油断をうながし、一瞬に全てをかけるしかなかった・・。
【りんご】それしかなかったのよぉっ!!(叫び)
【 俺 】宣戦同時攻撃かよ・・な、なんちゅう事を! このクソ姉貴!
【りんご】クソ姉貴・・? んだ、その態度。 ブッコロスぞ!?
【 俺 】(ここで逆ギレだと!?)
【りんご】大体あんた、最近ナマイキなのよ!
【りんご】考えてみれば口移しなんて、手の込んだことしなくたって良かったわっ!
【りんご】飲めって言ったら大人しく飲め! アタシの命令はだまって聞け!
【 俺 】や、やかましいっ! 貴様の血は何色だぁ!
【りんご】蛍光色だ!
【 俺 】く・・許せねえ・・今日という今日はもう許せねえ! りんご姉ッ! 覚悟!

//SE 何かが飛び掛る「シャァッ」という効果音
必勝のタイミング。
この距離で飛び掛れば、さしものりんご姉とて!
【りんご】フ・・まだまだあおい。

//SE 「ゴスッ」または「ゴリッ」とやたら痛そうな効果音
目の前に吹き荒れる旋風。
それが何なのか、俺には知覚できなかった。
ただ一つ理解したことは・・。
「俺はおそらく一生この姉には勝てないだろう」ということだけ。
【りんご】これが現代ボクシングの必須技術、カウンターよ。 覚えておくのね・・。

//SE 試合終了のゴングの音と歓声「カンカンカンカン・・・ワァーーーッ!」
意識が途切れる直前、俺は高らかに鳴り響くゴングの音と・・。
リング中央でチャンピオンベルトを掲げるりんご姉の姿を見たような気がした。
【 俺 】また・・気絶するのか・・俺・・。
【 俺 】えびボクサー・・万歳・・がくし。

※次回Hシーン(その3)へ続く。