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-2001/09/10-


『私たち……もう別れた方がいいと思うの』

今にもこぼれそうな雫をいっぱいに浮かべ、響子はそう言って唇を噛んだ。

見慣れた筈の部屋が、今日はやけに暗く、どこか嘘のように感じられる。

もちろん気のせいなのだろうが、そうだと断言する自信はどこにもない。
困惑を隠せぬまま、和也もまた、声を震わせる ―


『はぁい、カットォォ!!』

緊迫した空気を破り、ヒゲ面の監督が威勢のいい声をあげる。
その声を耳に、彩花は控え目な笑みを浮かべた。

普段は厳しい監督が見せた、満足げな表情。
最大限の賛辞に一礼して、彩花はセット裏に控えていた僕のもとへと駆け寄ってきた。

『えへへ、お疲れ様っ! 良かった、いい演技ができたみたいで』

『今日は少し難しいシーンだったから、昨日の夜からずっと練習してたの。練習の成果、出てたかなぁ?』

『ああ、出てたと思うよ。自分が別れようって言われてるみたいで、どうしようかと思ったぐらいさ』

『や、やだ。別れようなんて、そんなこと言うわけがないよ』

『はは、そうだといいけど。彩花に見放されないよう、僕も頑張らないとね』

『今でも頑張ってくれてるよ。だから私、安心してお仕事できるんだもん』

本日最後のシーンを終え、嬉しそうに微笑む彩花。
僕もつい気が緩み、そのまま雑談が始まってしまう。

一足先に芸能界入りした彼女を追うように、芸能マネージャーの道を志して1年。

右も左も分からない世界で、慌ただしく走る日々。
なんとか形になってきたばかりの僕を、彩花はいつも信用してくれる。

仕事が終わった直後の、束の間の安らぎ。
軽く始まった雑談をさえぎって、後ろから涼やかな声が聞こえてきた・・・・・・



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